コラム
統合失調症を早期発見するための症状チェックリストを精神科医が解説します
2025/09/23

統合失調症は脳内の情報処理に変化が生じることで、思考や感情、行動に様々な影響をもたらす疾患です。症状の早期発見は適切な治療開始のために極めて重要な要素となります。こちらでは、統合失調症の代表的な症状や見逃しやすいサインについて、精神科医が詳しく解説いたします。
統合失調症における基本的な病状
統合失調症は精神機能の統合に障害が生じる疾患で、現実の認識や思考の組み立てに困難が生じることが特徴です。この疾患は世界中で約1%の方に見られる決して珍しくない病気であり、多くの場合10代後半から30代前半にかけて発症する傾向があります。
脳内の神経伝達物質、特にドーパミンやセロトニンなどの化学物質のバランス変化が症状の発現に深く関わっていると考えられています。遺伝的な要因と環境的なストレスが組み合わさることで発症リスクが高まることが研究により明らかになっており、現在では効果的な治療法も多数開発されています。
初期段階で見逃しやすい前兆症状とは
統合失調症の初期段階では、明確な症状が現れる前に様々な前兆が見られることがあります。睡眠パターンの変化は重要な指標の一つで、夜眠れなくなったり、日中の眠気が強くなったりすることがあります。
学業や仕事での成績に変化が生じることもあります。以前は問題なくこなしていた作業でミスが増えたり、課題の提出が遅れがちになったりすることがあります。集中力の低下により、読書や勉強に集中することが困難になることもあります。
対人関係にも微細な変化が現れることがあります。友人との会話で以前のような自然さが失われたり、家族とのコミュニケーションが減少したりすることがあります。社交的だった方が急に人との接触を避けるようになることもあります。
初期段階チェックリスト
- 睡眠パターンが乱れている(夜眠れない/日中に強い眠気)
- 学業や仕事の成績が急に低下した
- 集中力が続かず、読書や勉強が難しい
- 家族や友人との会話が減った
- 社交的だったのに人を避けるようになった
陽性症状として現れるサイン
陽性症状とは、健康な状態では体験しない現象が新たに現れることを指しています。最も代表的な症状が”幻覚”で、実際には存在しない声が聞こえたり、他の人には見えないものが見えたりすることがあります。聴覚的な幻覚が最も頻繁に報告されており、自分に話しかけてくる声や、複数の声が会話している様子を体験することがあります。
”妄想”も重要な陽性症状の一つです。現実とは異なる強固な信念を持つようになり、周囲の人がいくら説明しても考えを変えることが困難になります。被害的な内容の妄想が多く、誰かに監視されている、狙われている、陰謀に巻き込まれているといった考えを抱くことがあります。
また、思考の流れにも変化が生じることがあります。
話している途中で内容が飛躍したり、論理的なつながりがない会話になったり、同じ言葉を繰り返し使用したりする状態が見られます。
陽性症状チェックリスト
- 実際には存在しない声が聞こえる(幻聴)
- 他の人には見えないものが見える(幻視)
- 誰かに監視・陰謀・攻撃されていると強く信じる(被害妄想)
- 話の内容が飛躍する/論理がつながらない
- 同じ言葉を繰り返すなど、不自然な会話がある
陰性症状による機能低下のサイン
陰性症状とは、本来持っている能力や機能が低下することを意味します。”感情の表現が乏しくなること”が典型的で、喜怒哀楽の表情が少なくなったり、声の抑揚が平坦になったりすることがあります。以前は感情豊かだった方でも、表情や声のトーンに変化が現れることがあります。
”意欲の低下”も重要な症状です。これまで興味を持っていた活動への関心が薄れたり、日常的な作業を継続することが困難になったりします。仕事や学業への取り組み方に変化が見られたり、趣味や娯楽に対する熱意が失われたりすることがあります。
”社会的な関わりを避ける”という傾向も陰性症状の特徴です。友人や家族との交流を控えるようになったり、集団での活動に参加することを嫌がったりする場合があります。言葉数が減り、会話を続けることが困難になることもあります。
陰性症状チェックリスト
- 感情表現が乏しい(喜怒哀楽が減る)
- 声のトーンが平坦になった
- 興味や関心がなくなり、以前楽しんでいたことをやめた
- 勉強・仕事・家事などの日常活動に取り組めない
- 友人や家族との交流を避けるようになった
認知機能に現れる変化の特徴
統合失調症では認知機能にも様々な変化が生じることがあります。注意力や集中力の低下により、一つの作業を長時間続けることが困難になったり、複数のことを同時に処理することができなくなったりします。
記憶機能にも影響が及ぶことがあります。新しい情報を覚えることが困難になったり、以前覚えていたことを思い出すのに時間がかかったりすることがあります。特に作業記憶と呼ばれる、情報を一時的に保持しながら処理する能力に変化が見られることが多くあります。
判断力や問題解決能力にも変化が現れることがあります。日常生活での決断を下すことが困難になったり、複雑な状況を整理して対応することが難しくなったりする場合があります。
認知機能チェックリスト
- 注意力や集中力が落ちている
- 新しいことを覚えにくい/忘れやすい
- 判断力や問題解決力が低下している
- 複数のことを同時に処理できなくなっている
日常行動における具体的な変化の特徴
統合失調症の症状は日常生活の様々な場面で現れる可能性があります。身だしなみや衛生管理への関心が薄れることがあり、以前は整った外見を保っていた方でも、髪型や服装への配慮が不十分になったり、入浴の頻度が減少したりすることがあります。
時間管理にも困難が生じることがあります。約束の時間を守ることができなくなったり、一日のスケジュールを組み立てることが困難になったりします。時間の経過を正確に把握することが難しくなることもあります。
食事習慣にも変化が現れることがあります。食欲が大幅に低下したり、逆に過食傾向になったりすることがあります。栄養バランスへの配慮が不十分になったり、規則正しい食事時間を保つことが困難になったりする場合もあります。
日常行動チェックリスト
- 身だしなみや清潔さへの配慮が減った
- 入浴や着替えをしなくなった
- 約束の時間を守れない/時間感覚が乱れている
- 食欲の変化(過食/拒食)や食事管理ができない
- 一人で笑ったり話したりする様子がある
家族や周囲の人が気づいてあげることが大切
身近な人だからこそ気づける微妙な変化があります。会話の内容や話し方に変化が生じることがあり、以前とは異なる独特な表現を使うようになったり、話の筋道が理解しにくくなったりすることがあります。
行動面での変化も重要な観察ポイントです。一人でいるときに笑ったり話したりしている様子が見られたり、特別な理由がないのに警戒心を強く示したりすることがあります。また、以前は楽しんでいた活動に対する反応が変化することもあります。
感情の表現や反応にも変化が現れることがあります。適切な場面での感情表現が困難になったり、状況に不適切な反応を示したりすることがあります。喜びや悲しみなどの感情が適切に表現されなくなることもあります。
統合失調症の診断には精神科医による診断が必要です
統合失調症の診断には、精神科医による専門的で総合的な評価が不可欠です。症状の種類や程度だけでなく、発症時期、症状の経過、日常生活への影響度、家族歴などを多角的に検討して診断が行われます。
当クリニックでは、統合失調症が疑われる症状でお悩みの方やご家族からの相談を丁寧にお受けしております。気になる症状がある場合や、ご家族の変化が心配な場合は、遠慮なくご相談ください。
プライバシーの保護を最優先に考慮しながら、患者様一人ひとりの状況に応じた適切な診察と治療方針の提案を行っております。早期の相談により、症状の悪化を防ぎ、より良い治療結果を得ることが期待できますので、一人で悩まずにぜひ専門的な支援をお求めください。
記事監修医師

本 将昂 院長
精神保健指定医
日本専門医機構認定 精神科専門医