よりそうこころの在宅クリニック

コラム

発達障害と遺伝の関係について

2025/11/07

「発達障害って遺伝するの?」お子さんの診断を受けた保護者の方なら、一度は気になったことがあるのではないでしょうか。実際、発達障害と遺伝には関係があることが研究で明らかになっていますが、単純に「必ず遺伝する」というわけでもありません。この記事では、発達障害と遺伝について、わかりやすく解説していきます。

発達障害とは何か?

発達障害の定義と種類

発達障害は、生まれつきの脳の特性によって起こる状態です。一人ひとり特徴が違うため、「この症状があれば発達障害」とは言い切れません。デジタル時代の今、正しい定義を理解することが大切になっています。

代表的なものに、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)があります。

ASDでは対人関係やコミュニケーションに特定の困難さが見られたり、こだわりが強かったりします。ADHDは注意が続かない、衝動的に動いてしまう、じっとしていられないといった特徴があります。LDは知的な遅れはないのに、読み書きや計算など特定の学習だけが極端に苦手という状態です。

これらは単独で現れることもあれば、複数の特性を併せ持つこともあります。大事なのは、適切な支援があれば社会生活の困難を軽減できるという点です。

発達障害の診断方法

発達障害の診断は、医師や専門家が複数の段階を踏んで慎重に行います。

まず小児科や精神科を受診し、医師による問診や行動観察から始まります。日常生活での困りごとや発達の経過を詳しく報告していただきます。次に心理検査や発達検査で、認知機能や社会性を多角的に評価します。自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害、学習障害など、科学的な方法で見極めていきます。

最終的には検査結果だけでなく、家庭や学校での様子も含めて総合的に判断されます。時間がかかることもありますが、一人ひとりの状態を丁寧に見極めるために必要な過程です。早期に適切な診断を受ければ、その後の療育の方向性が明確になります。

発達障害の原因を探る

遺伝と発達障害の関係

近年の研究で、発達障害には遺伝子が関わっていることがわかってきました。妊娠中の発達過程で、いくつかの遺伝的要因が絡み合って影響するようです。

ただし、単一の遺伝子で決まるわけではありません。複数の遺伝的要素が複雑に作用していると考えられています。ゲノム解析技術の進歩で、関連する可能性のある遺伝子領域がいくつか特定されてきました。これらの疾患に関わる遺伝子の働きを利用して、早期発見の研究も進められています。

遺伝的要因があるからといって必ず発症するわけではありません。環境との相互作用も重要で、研究を進めることでより効果的な支援方法の開発につながることが期待されています。

環境要因と発達障害の関連

発達障害の発症には、遺伝だけでなく環境要因も関係しています。研究により、環境と遺伝の相互作用が必要不可欠な要素だとわかってきました。

妊娠中の母体の健康状態、栄養、ストレスなどが胎児の脳発達に影響する可能性があります。特に妊娠初期は神経系の形成で重要な時期です。生まれてからの育成環境も大きく影響します。対人関係の経験、運動の機会、言語環境などが発達過程で重要になってきます。

地域ごとの支援体制や教育環境の違いも、子どもの成長に影響します。早期発見・早期支援の体制が整っている地域では、困難さが軽減されるケースも多く見られます。

環境要因についてはまだ解明が必要な部分も多いですが、適切な環境を整えることで発達上の問題を予防したり軽減したりできる可能性があります。遺伝的なリスクがある場合でも、環境を整えることで良好な発達を促せるという研究結果も含め、今後さらなる調査が期待されています。

遺伝が発達障害に与える影響

親から子への遺伝の影響

「親が発達障害だと、子供にも遺伝するの?」これは多くの保護者が気にされる点です。生まれつきの特性として子供が親の遺伝的特徴を受けることは自然ですが、発達障害の場合は複雑です。

研究によれば、自閉症スペクトラム障害の遺伝率は70〜90%程度、ADHDは約70〜80%と報告されています。これは遺伝的要因が大きな役割を果たしていることを示しています。

父親・母親の双方から影響を受ける可能性があり、両親それぞれの遺伝的特性が組み合わさることで、児童期に特性が現れることがあります。妊娠中の母体の状態も影響しますし、遺伝的素因に加えて環境要因が相互に作用することで、発症リスクが変化する可能性があります。

ただし重要なのは、親が発達障害の特性を持っているからといって、必ず子供に遺伝するわけではないという点です。遺伝的リスクは存在しますが、実際の発現には多くの要因が関わっています。本人の生活環境や受ける支援によって、その後の成長は大きく変わってきます。

兄弟間の遺伝の影響

兄弟間での発達障害のリスクについても、多くの研究があります。発達障害を持つ子供の兄弟は、一般より同じ特性を持つリスクが高くなることが報告されています。ただし、必ず複数の子供全員に現れるわけではありません。

一卵性双生児では遺伝子が完全に同じなので、二卵性双生児より両者が同じ発達障害を持つ確率が大きく高くなります。この違いが、遺伝的要因の強い影響を示す証拠になっています。

ただし兄弟が同じ環境で育つことも影響します。親の接し方や家族全体の特性が、兄弟それぞれの発達に作用するのです。今回の研究では、単一の要因ではなく、遺伝と環境の相互作用が重要だとわかっています。

たとえ兄弟で同じ診断を受けても、それぞれの特性の現れ方は異なります。一人ひとりの個性を尊重し、その子に合った支援を考えることが大切です。

発達障害における父親と母親の役割

発達障害の遺伝において、父親と母親それぞれの役割についても研究が進んでいます。両親が子育てで果たす役割は、遺伝的側面だけでなく環境的側面でも重要です。

研究により、発達障害の中には性別によって発症率が異なるものが多いことがわかっています。ADHDや自閉症スペクトラム障害は男性に多く見られる傾向があり、性染色体に関連する遺伝的要因が影響している可能性が示唆されています。

父親の年齢が高いほど、子供に発達障害が現れるリスクがわずかに高まるという報告もあります。母親については、妊娠中の健康状態や栄養状態が胎児の脳発達に直接影響します。また、愛情深い養育態度が、発達障害を持つ子供の成長で大切な要素となります。

発達障害を抱える子供の育ちには、両親が協力して支援することが不可欠です。全員が当事者として関わり、それぞれの強みを活かした子育てをすることが重要です。母親だけが仕事を調整するのではなく、父親も積極的に働きかけることで、家庭全体のバランスが保たれます。

なお、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、利用規約に基づいて作成されています。個別の状況については、必ず医療機関にご相談ください。

発達障害の遺伝確率

発達障害が遺伝する確率

「実際、どのくらいの確率で遺伝するの?」これは多くの保護者が知りたいポイントです。リスクの高さを正確に理解することで、適切な準備や心構えができます。

一般人口における発達障害の発症率と比べて、家族に発達障害を持つ人がいる場合、その子供や兄弟の発症リスクは高まることが確認されています。ただし、「遺伝する」という表現は正確ではなく、「リスクが高まる」と理解する方が適切です。

具体的には、自閉症スペクトラム障害は一般人口で約1〜2%ですが、兄弟がいる場合は10〜20%程度に上昇します。ADHDは一般人口で約5%、親がADHDの場合は子供の発症率が20〜30%程度になります。学習障害も家族性の傾向があり、親や兄弟に学習障害がある場合、リスクは一般より高くなります。

発達障害の遺伝は、単純な優性・劣性の法則では説明できません。複数の遺伝子が関与し、それぞれが少しずつリスクを高める「多因子遺伝」のパターンを示します。どちらか一方の親だけでなく、両親からの遺伝的要因が組み合わさることで可能性が変化します。

遺伝的リスクが高いからといって、必ず発症するわけではありません。もう一つ重要なのは、環境要因や偶然の要素も発症に関わるという点です。推測や確認された数値はあくまで統計的な傾向で、個々のケースでは異なります。

遺伝的リスクを知ることは、決してネガティブなことではありません。早期に気づき、適切な支援を始められるという利点があります。家族の特性を理解することで、より効果的な育て方を実際に選択できます。

性別による発症確率の違い

発達障害の発症には、性別による明確な違いが見られます。多くの発達障害で、男性の方が女性より発症率が高いことが知られています。自閉症スペクトラム障害は男性が女性の約4倍、ADHDは約2〜3倍、学習障害も全体的には男性にやや多い傾向です。

この性差には、いくつかの原因が考えられています。性染色体に関連する遺伝子が影響している可能性があります。女性はX染色体を2本持つため、一方に問題があってももう一方が補完する「保護効果」が働くという仮説があります。

また、男女では脳の発達パターンや神経回路の形成に違いがあり、これが発達障害の症状の現れ方に影響すると考えられています。妊娠中の性ホルモンの濃度が胎児の脳発達に影響を与える可能性も研究されています。

女性の場合、症状が目立ちにくかったり、社会的な振る舞いで特性を隠したりする傾向があるため、診断されにくいという指摘もあります。実際の発症率の違いよりも、診断率の違いが大きい可能性があります。

性別だけでなく、年齢によっても症状の現れ方は異なります。幼児期には多動が目立っても、思春期以降は不注意が主な症状になるケースもあります。女性では、思春期のストレスにより二次的な病気を併発するケースも見られます。

性別による統計的な違いはありますが、最も重要なのは一人ひとりの特性を理解することです。男性だから、女性だからという理由だけで判断せず、個別の症状や困りごとに応じた支援を考えることが必要です。異なる特性を持つすべての人が適切な支援を受けられる社会を目指すことが、異なりを超えた理解につながります。

発達障害に関するよくある質問

発達障害の診断後の対応

診断を受けた後、どう対応すればいいのか不安を感じる保護者の方は多いです。診断結果を前向きに受け止め、適切なサポートを受けることで、お子さんの成長を支えることができます。

診断後は、できるだけ早く専門的な支援を始めることが重要です。早期から療育や訓練を受けることで、社会性やコミュニケーション能力の発達を促せます。発達障害の対応には、専門医や療育の専門家との継続的な連携が必要です。定期的な受診を通じて、お子さんの成長段階に応じた適切な治療や対策を相談できます。

ASD(自閉症スペクトラム障害)なら社会性やコミュニケーションの訓練、環境調整が中心になります。ADHD(注意欠陥多動性障害)は行動療法、必要に応じて薬物療法を行います。LD(学習障害)には個別の学習支援、得意分野を伸ばす教育が効果的です。

発達障害を持つ本人だけでなく、家族全員が正しい知識を持つことが大切です。兄弟や祖父母も含めて、どのように接すればよいかを学び、家庭全体で支える体制を作ることが理想的です。

教育機関に診断結果を伝え、適切な配慮をお願いすることも重要です。個別支援計画を立て、お子さんが学校生活を送りやすい環境を整えることができます。診断を受けたことは終わりではなく始まりです。適切な支援により、お子さんの可能性を最大限に引き出すことができます。

相談できる窓口

発達障害に関する相談ができる窓口は、全国にさまざまな形で存在します。一人で悩まず、専門家や支援機関のサポートを利用することで、適切な対応が可能になります。

各都道府県に設置されている発達障害者支援センターでは、発達障害に関する専門家が診断、療育、就学、就労など、ライフステージごとの相談に応じてくれます。無料で気軽に相談できる窓口として、多くの方が利用されています。

小児科、児童精神科、精神科などで専門医による診察が受けられます。診断だけでなく、治療方針や療育の方向性についても相談できます。まずはかかりつけの小児科医に相談し、必要に応じて専門医を紹介してもらうことも可能です。

保健センター・保健所では、乳幼児健診などを通じて発達の気になる点を相談できます。保健師が対応し、必要に応じて専門機関への案内もしてくれます。

学校や幼稚園、保育園でも相談が可能です。特別支援教育コーディネーターや教育相談担当者が、学校生活における支援方法について一緒に考えてくれます。教育委員会にも相談窓口があり、就学相談などに応じています。

地域の子育て支援施設でも、発達に関する相談を受け付けています。気軽に立ち寄れる場所として、日頃の困りごとを相談できる環境が整っています。近年は、オンラインでの相談サービスも充実してきました。自宅から専門家のアドバイスを受けられるため、忙しい方や遠方の方にもおすすめです。

多くの機関では、よくある質問をまとめた案内資料やコラムを提供しています。会社などが運営する情報サイトも参考になりますが、医療的な判断が必要な場合は必ず専門家に相談することが重要と言えます。

心配なことがあれば、まずは地域の支援センターや保健センターに気軽に問い合わせてみることをおすすめします。相談することで、次に取るべき行動が明確になり、適切な支援につながります。

また、当院でも発達障害の在宅診療対応を行っております。

在宅で精神科専門医の診断を受けたい・治療を進めたいという方はお気軽にご相談ください。

記事監修医師

本 将昂院長

本 将昂 院長
精神保健指定医
日本専門医機構認定 精神科専門医

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