よりそうこころの在宅クリニック

コラム

PTSDの診断基準とは|自己判断が危険な理由を専門医が解説

2026/01/23

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、強い恐怖や衝撃を伴う出来事を経験した後に発症する精神疾患です。「あの時の記憶がフラッシュバックする」「悪夢で何度も目が覚める」といった症状に苦しんでいる方は少なくありません。尼崎市のよりそうこころの在宅クリニックでは、PTSDの専門的な診断と治療を行っております。こちらでは、PTSDの正確な診断基準、自己判断が危険な理由、そして適切な治療方法について精神科専門医が詳しく解説いたします。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、生命の危険を感じるような強烈な体験や、深刻な精神的ショックを受けた後に発症する精神疾患です。交通事故、自然災害、暴力被害、戦争体験、性的暴行など、様々なトラウマ体験が原因となります。日本では、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大規模災害を契機に、PTSDという概念が広く認識されるようになりました。

PTSDは単なる「強いショック」や「一時的な不安」とは異なり、トラウマ体験から数週間、数ヶ月経過しても症状が持続し、日常生活に深刻な支障をきたす疾患です。脳の扁桃体や海馬といった領域の機能変化が関係しており、「気の持ちよう」や「時間が解決する」といった問題ではなく、専門的な治療を必要とする精神疾患なのです。

PTSDの正式な診断基準

PTSDの診断には、国際的に使用されている診断基準があります。現在、世界的に広く用いられているのは、アメリカ精神医学会が発表しているDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)と、世界保健機関(WHO)が発表しているICD-11(国際疾病分類第11版)です。これらの診断基準では、PTSDの発症には明確な条件が定められています。

まず前提として、実際の死や深刻な傷害、性的暴力といった、生命や身体の安全を脅かす出来事への曝露が必要です。この曝露には、自分自身が直接体験した場合だけでなく、他者に起きた出来事を目撃した場合、親しい家族や友人にトラウマ的出来事が起きたことを知った場合、職務上トラウマ的出来事の詳細に繰り返し曝露される場合(救急隊員や警察官など)も含まれます。

DSM-5では、PTSDの症状を4つのカテゴリーに分類しています。第一に侵入症状があり、トラウマ体験に関する苦痛な記憶が繰り返し頭に浮かぶ、悪夢を繰り返し見る、フラッシュバックとして体験が再現される、トラウマを思い出させるものに接した時に強い心理的苦痛や身体反応が生じるといった症状です。

第二に回避症状として、トラウマに関連する記憶や思考、感情を避けようとする、トラウマを思い出させる外的な要因(人、場所、会話、活動、物、状況)を避けようとするといった行動が見られます。第三に認知と気分の陰性変化があり、トラウマ体験の重要な部分を思い出せない、自分や他者、世界に対する過度に否定的な信念、トラウマの原因や結果について自分や他者を不当に責める、持続的な陰性感情、活動への興味や参加の減少、他者から孤立している感覚、肯定的な感情を経験できないといった症状が含まれます。

第四に覚醒度と反応性の著しい変化として、怒りっぽさや攻撃的行動、無謀または自己破壊的行動、過度の警戒心、過剰な驚愕反応、集中困難、睡眠障害などが見られます。これらの症状が1ヶ月以上持続し、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能に著しい苦痛や障害を引き起こしている場合にPTSDと診断されます。

PTSDと似た症状を示す疾患

PTSDの症状は他の精神疾患と重なる部分が多く、専門医でも鑑別診断には慎重を期します。急性ストレス障害はPTSDと非常によく似た症状を示しますが、トラウマ体験から3日から1ヶ月以内という時期に限定されます。症状が1ヶ月を超えて持続する場合、PTSDへと診断が変更されることがあります。

うつ病とPTSDは併存することが多く、気分の落ち込み、興味の喪失、睡眠障害といった症状が共通しています。しかし、PTSDでは特定のトラウマ体験との明確な関連があり、フラッシュバックや回避症状といったPTSD特有の症状が見られます。パニック障害では突然の強い不安発作が特徴ですが、PTSDでもトラウマを思い出させるものに遭遇した際に似たような反応が起きることがあります。ただし、パニック障害では明確なきっかけがないことも多く、この点が鑑別のポイントとなります。

全般性不安障害は様々なことに対する過度で制御困難な心配が特徴ですが、PTSDでは不安が特定のトラウマ体験に関連しています。境界性パーソナリティ障害も、感情の不安定さや対人関係の問題といった点でPTSDと共通する部分がありますが、幼少期からの長期的なパターンであることが多く、明確なトラウマ体験との時間的関連性がPTSDの重要な特徴です。

さらに、物質使用障害との関連も注意が必要です。PTSD患者の多くが、症状を和らげるためにアルコールや薬物に依存するようになることがあり、これが診断を複雑にします。

PTSDの自己判断が危険な理由

インターネット上には様々なPTSDのチェックリストや自己診断ツールが存在しますが、これらに頼った自己判断には重大な危険が伴います。

最も大きな問題は、適切な治療の開始が遅れることです。PTSDは早期の適切な治療介入により回復の可能性が高まる疾患ですが、自己判断で「PTSDではない」と結論づけてしまうと、症状が慢性化し、治療がより困難になる可能性があります。逆に、PTSDではない状態を自己診断でPTSDと判断してしまい、不適切な対処方法を続けることで、本来必要な治療を受ける機会を逃してしまうこともあります。

前述のように、PTSDと似た症状を示す精神疾患は多数存在します。専門医でも詳細な問診と評価を行って慎重に診断を下すものであり、素人判断では正確な鑑別は不可能です。特にうつ病、不安障害、パニック障害などとの併存も多く、複雑な病態を自己判断で理解することは極めて困難です。

また、PTSDは放置すると症状が悪化し、日常生活や仕事、人間関係に深刻な影響を及ぼします。自殺念慮や自殺企図のリスクも高まることが知られており、自己判断による放置は生命に関わる危険性さえあります。アルコールや薬物への依存、社会的孤立、身体疾患の悪化など、二次的な問題も生じやすくなります。

さらに、PTSDの症状の中には、トラウマ体験の記憶が曖昧になったり、感情が麻痺したりする解離症状も含まれます。このような状態では、自分自身の症状を正確に評価することが困難になり、自己判断の信頼性はさらに低下します。専門医による客観的な評価が不可欠なのです。

PTSDの専門的な診断プロセス

尼崎市のよりそうこころの在宅クリニックでは、PTSDの診断において慎重かつ丁寧なプロセスを踏んでいます。初診時には、まず詳細な問診を行います。トラウマ体験の内容、それがいつ起きたのか、現在どのような症状があるのか、症状がいつから始まったのか、日常生活にどの程度影響しているのかなど、時間をかけて丁寧にお話を伺います。

この際、患者様にとっては思い出すことが苦痛な内容も含まれるため、無理のないペースで、安心して話せる環境を整えることを最優先にしています。標準化された評価尺度も使用します。CAPS(臨床医評価によるPTSD尺度)やIES-R(改訂出来事インパクト尺度)といった、国際的に信頼性が確立された評価ツールを用いることで、症状の重症度を客観的に評価します。

身体的な健康状態の確認も重要です。PTSDの症状には、頭痛、胃腸症状、慢性疼痛など、身体症状として現れるものも多くあります。また、甲状腺機能異常や他の身体疾患が精神症状を引き起こしている可能性も除外する必要があります。必要に応じて、血液検査や他科への紹介も行います。

他の精神疾患との鑑別診断も慎重に行います。前述のように、うつ病、不安障害、パニック障害、物質使用障害などとの併存や鑑別が必要であり、これには専門的な知識と経験が不可欠です。診断が確定した後も、定期的な評価を続け、症状の変化や治療効果を確認しながら、治療方針を適宜調整していきます。

PTSDの治療方法

PTSDの治療には、心理療法と薬物療法を組み合わせたアプローチが効果的とされています。心理療法では、トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)が最も効果的な治療法として国際的に推奨されています。この治療では、安全な環境の中でトラウマ体験に段階的に向き合い、その記憶を適切に処理することを目指します。持続エクスポージャー療法(PE)では、トラウマの記憶を繰り返し語ることで、その記憶が引き起こす恐怖や不安を徐々に軽減していきます。

認知処理療法(CPT)では、トラウマ体験に関連する否定的で不適応な考え方を特定し、より適応的で現実的な考え方に修正していきます。EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)も、PTSDに対する有効性が確認されている治療法の一つです。

薬物療法では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第一選択薬として使用されます。セルトラリンやパロキセチンなどがPTSD治療薬として承認されており、うつ症状や不安症状の軽減に効果があります。不眠が強い場合には睡眠薬、悪夢が顕著な場合には特定の降圧薬が効果を示すことがあります。ただし、薬物療法は症状の緩和に役立ちますが、根本的な治療には心理療法との併用が推奨されています。

よりそうこころの在宅クリニックでのPTSD治療

尼崎市小中島にあるよりそうこころの在宅クリニックでは、PTSDでお困りの方に対して、専門的な診断と治療を提供しております。精神科専門医が、患者様一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療計画を立案いたします。トラウマ体験について話すことは大きな勇気を必要としますが、当クリニックでは安心して話せる環境づくりを最優先にしております。

当クリニックでは、通院が難しい方には訪問診療、外出が困難な方や遠方の方にはオンライン診療にも対応しております。PTSDの症状により外出が困難になっている方も、ご自宅で安心して治療を受けることができます。また、訪問での心理士によるカウンセリングも提供しており、心理療法と薬物療法を組み合わせた総合的な治療が可能です。

「あの出来事以来、夜眠れない」「フラッシュバックに苦しんでいる」「日常生活がままならない」といった症状でお悩みの方は、自己判断で放置せず、尼崎市のよりそうこころの在宅クリニックにお気軽にご相談ください。PTSDは適切な治療により回復が期待できる疾患です。一人で抱え込まず、専門医の診断と治療を受けることが回復への第一歩となります。早期に適切な治療を開始することで、症状の改善と生活の質の向上が期待できます。プライバシーに十分配慮しながら、安心して治療を受けられる環境を整えてお待ちしております。

記事監修医師

本 将昂院長

本 将昂 院長
精神保健指定医
日本専門医機構認定 精神科専門医

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