よりそうこころの在宅クリニック

コラム

認知症に伴う不安や被害妄想への対応方法

2025/11/19

認知症を発症されたご本人は、記憶や認知機能の変化により強い不安を感じたり、現実とは異なる認識を持ったりすることがあります。特に被害妄想は介護をされるご家族にとって対応が難しい症状の一つです。こちらでは、認知症に伴う不安や被害妄想の特徴と、ご家族ができる具体的な対応方法について専門医が詳しく解説いたします。

認知症における不安と被害妄想の基本的な理解

認知症は脳の神経細胞が徐々に損傷を受けることで、記憶力や判断力、見当識などの認知機能が低下していく疾患です。日本では高齢化の進展に伴い、65歳以上の約6人に1人が認知症を発症しているとされており、今後さらに増加が予測されています。

認知症の進行に伴い、ご本人は周囲の状況を正確に把握することが困難になります。この認知機能の低下が、強い不安感や被害妄想といった精神症状を引き起こす要因となります。脳の機能変化により、現実の出来事を正しく解釈できなくなったり、過去の記憶と現在の状況を混同したりすることで、様々な心理的苦痛が生じるのです。

認知症の方が感じる不安の特徴とは

認知症の方が経験する不安には、いくつかの典型的なパターンがあります。記憶障害により、つい先ほどの出来事を忘れてしまうことで、「自分は何をしていたのか」「今どこにいるのか」という見当識の混乱が生じ、強い不安を感じることがあります。

環境の変化に対する不安も顕著です。住み慣れた自宅であっても、認知機能の低下により場所の認識が曖昧になると、「ここは自分の家ではない」「知らない場所にいる」という感覚を抱き、帰宅願望が強くなることがあります。特に夕方から夜間にかけて不安が高まる「夕暮れ症候群」と呼ばれる現象も見られます。

将来への漠然とした不安も特徴的です。自分の症状が進行していくことへの恐れや、家族に迷惑をかけているのではないかという心配、経済的な不安など、様々な要因が重なり合って強い不安状態を引き起こすことがあります。

不安症状のチェックポイント

🗹 落ち着きがなく、そわそわした様子が続く

🗹 同じ質問を繰り返し何度も尋ねる

🗹 夕方から夜にかけて不安が強くなる

🗹 一人でいることを極度に嫌がる

🗹 外出や環境の変化を過度に恐れる

認知症に伴う被害妄想の現れ方

被害妄想は、現実には起きていない被害を受けていると強く信じ込む症状です。認知症の方に見られる被害妄想には、いくつかの典型的なパターンがあります。

最も多く見られるのが「物盗られ妄想」です。大切にしている財布や通帳、印鑑などを自分で置いた場所を忘れてしまい、誰かに盗まれたと思い込むことがあります。特に日常的に介護をしている家族が疑われることが多く、「あなたが私のお金を盗んだ」と訴えることがあります。

食事に関する被害妄想も頻繁に見られます。食事を終えた直後であっても、食べたこと自体を忘れてしまい、「今日は何も食べさせてもらっていない」「ご飯を抜かれている」と訴えることがあります。これは記憶障害による症状であり、意図的な嘘ではありません。

配偶者に対する嫉妬妄想が現れることもあります。配偶者が浮気をしている、他の人と親しくしているといった根拠のない疑いを持ち、強い嫉妬心を示すことがあります。これは認知機能の低下により、配偶者の行動を正しく理解できなくなることが原因です。

被害妄想のチェックポイント

🗹 「財布やお金を盗まれた」と頻繁に訴える

🗹 特定の家族を犯人扱いして責める

🗹 「食事を与えられていない」と主張する

🗹 配偶者の浮気を疑う発言が増える

🗹 「誰かに狙われている」と強い恐怖を示す

不安や被害妄想が生じる背景にある要因

認知症に伴う不安や被害妄想には、様々な背景要因が関係しています。これらの要因を理解することが、適切な対応への第一歩となります。

認知機能の低下そのものが最も基本的な要因です。記憶障害により最近の出来事を思い出せないことで、自分が置いた物の場所が分からなくなったり、食事をしたことを忘れたりします。この記憶の欠落を埋めるために、脳が「誰かに盗まれた」「食べさせてもらえなかった」という説明を作り出すことがあります。

環境的なストレスも重要な要因です。騒音や人の出入りが多い環境、照明が暗すぎたり明るすぎたりする空間、気温の変化などが不安を増強させることがあります。また、介護者の焦りやイライラといった感情も、ご本人に伝わり不安を高める要因となります。

身体的な不調も見逃せません。痛み、便秘、脱水、睡眠不足などの身体症状が、不安や被害妄想を悪化させることがあります。特に感染症や薬の副作用により、精神症状が急激に悪化することもあります。

ご家族ができる具体的な対応方法

認知症の方の不安や被害妄想に対しては、適切な対応方法を知ることで症状を和らげることができます。

否定せずに共感する姿勢を持つ

被害妄想の内容を頭ごなしに否定することは避けましょう。「そんなことあるわけない」「また同じこと言って」といった反応は、ご本人の不安をさらに強めてしまいます。まずは「心配なんですね」「不安な気持ちなんですね」と、感情に寄り添う姿勢を示すことが大切です。

物盗られ妄想の場合は、一緒に探す姿勢を見せることが効果的です。「一緒に探しましょう」と提案し、本人が見つけた形になるように誘導することで、「自分で見つけた」という満足感を得られ、症状が和らぐことがあります。

環境を整えて安心感を提供する

生活環境を整えることで、不安を軽減できることがあります。よく使う物は決まった場所に置き、大切な物は複数用意しておくことも一つの方法です。財布や鍵など、紛失を訴えやすい物については、予備を用意しておくと対応がスムーズになります。

照明や室温を適切に保ち、騒音を減らすことも重要です。特に夕方から夜にかけて不安が高まる時間帯には、明るさを保ち、穏やかな音楽を流すなどの工夫が効果的です。

規則正しい生活リズムを維持する

毎日同じ時間に起床し、食事や入浴、就寝の時間を一定に保つことで、見当識の維持に役立ちます。日中は適度な活動を取り入れ、夜間の良好な睡眠を確保することが、不安の軽減につながります。

散歩や軽い体操など、身体を動かす機会を作ることも大切です。日光を浴びることで体内時計が整い、夜間の睡眠の質が向上します。

コミュニケーションの工夫を実践する

話しかける際は、正面からゆっくりと、短い言葉で伝えることを心がけましょう。複雑な説明や長い文章は理解が難しいため、シンプルな表現を使います。

また、選択肢を与えすぎないことも重要です。「何が食べたいですか」ではなく、「ごはんとパン、どちらがいいですか」というように、二択で尋ねることで、決断の負担を軽減できます。

介護者自身のケアを忘れない

被害妄想の対象になりやすい主介護者は、精神的に大きな負担を感じることがあります。「自分の介護が悪いのではないか」と自分を責める必要はありません。これは病気による症状であり、介護者の責任ではないことを理解することが大切です。

一人で抱え込まず、家族や友人、専門職に相談することをお勧めします。デイサービスやショートステイなどの介護サービスを利用して、介護者自身の休息時間を確保することも重要です。

専門医による治療とサポートの重要性

不安や被害妄想が強く、日常生活に大きな支障をきたしている場合は、専門医による治療が必要です。

薬物療法による症状のコントロール

認知症に伴う不安や被害妄想に対しては、抗認知症薬や向精神薬による治療が検討されます。抗認知症薬は認知機能の低下を遅らせる効果があり、結果として精神症状の改善にもつながることがあります。

不安が強い場合には抗不安薬、被害妄想や幻覚が顕著な場合には抗精神病薬が処方されることがあります。ただし、高齢者の場合は副作用に注意が必要であり、少量から慎重に開始し、効果と副作用を見極めながら調整していきます。

非薬物療法の活用

薬物療法だけでなく、様々な非薬物療法も効果的です。回想法では、昔の写真やアルバムを見ながら過去の思い出を語ることで、認知機能の活性化と情緒の安定を図ります。

音楽療法や園芸療法、アートセラピーなども、不安の軽減に役立つことがあります。これらの活動を通じて、ご本人が喜びや達成感を感じることで、精神的な安定につながります。

定期的な診察と評価

認知症の症状は変化していくため、定期的な診察により状態を評価し、治療方針を調整していくことが重要です。身体疾患の合併や薬の副作用がないかを確認し、必要に応じて治療内容を見直します。

また、介護者からの情報も診察において重要な役割を果たします。日常生活での様子や困っていること、効果的だった対応方法などを医師に伝えることで、より適切な治療やアドバイスを受けることができます。

地域の支援サービスの活用方法

認知症ケアは、医療機関だけでなく地域の様々なサービスを活用することで、より効果的に行うことができます。

地域包括支援センターは、認知症に関する相談窓口として重要な役割を果たしています。介護保険サービスの利用方法や、地域の支援制度について情報提供を受けることができます。

認知症カフェでは、同じような経験をしている家族と情報交換ができ、孤立感の軽減につながります。また、認知症サポーターなど、地域で認知症への理解を深める取り組みも広がっています。

当クリニックでの総合的なサポート体制

当クリニックでは、物忘れの進行や、認知症に伴う不安や被害妄想でお困りのご本人とご家族に対して、総合的なサポートを提供しております。

専門医による丁寧な診察と評価を行い、お一人おひとりの症状や生活状況に応じた治療方針を提案いたします。薬物療法だけでなく、日常生活での対応方法についても具体的にアドバイスさせていただきます。

また、ご家族の介護負担についても配慮し、利用可能な社会資源や支援制度についての情報提供も行っております。介護保険サービスの活用方法や、地域の支援機関との連携についてもサポートいたします。

不安や被害妄想の症状でお悩みの場合、また介護方法について相談されたい場合は、どうぞ遠慮なくご相談ください。プライバシーに十分配慮しながら、ご本人とご家族が安心して生活できるよう、専門的な支援を提供させていただきます。

早期の相談により、症状の悪化を防ぎ、より良い生活の質を維持することが期待できます。一人で悩まず、まずはお気軽にお問い合わせください。

記事監修医師

本 将昂院長

本 将昂 院長
精神保健指定医
日本専門医機構認定 精神科専門医

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