よりそうこころの在宅クリニック

コラム

境界性パーソナリティ障害に薬は効く?治療の考え方を解説

2026/02/14

「感情のコントロールができない」「対人関係がいつもうまくいかない」「自分が何者なのか分からない」――このような悩みを抱え、境界性パーソナリティ障害(BPD)と診断された、あるいは疑いがあると言われた方の中には、薬物療法に対して様々な疑問や期待を持たれている方が少なくありません。「薬を飲めば治るのか」「どんな薬が効くのか」「一生薬を飲み続けなければならないのか」といった不安の声もよく耳にします。尼崎市のよりそうこころの在宅クリニックでは、境界性パーソナリティ障害の専門的な治療を行っております。こちらでは、境界性パーソナリティ障害における薬物療法の位置づけ、どのような症状に薬が効果的なのか、そして治療全体の考え方について精神科専門医が詳しく解説いたします。

境界性パーソナリティ障害(BPD)とは

境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder: BPD)は、感情の不安定さ、対人関係の混乱、自己イメージの不安定さ、衝動的な行動を特徴とするパーソナリティ障害です。「境界性」という名称は、かつて神経症と精神病の境界にあると考えられていたことに由来しますが、現在では独立した疾患概念として確立されています。

境界性パーソナリティ障害の主な特徴として、まず感情の激しい変動があります。些細な出来事で気分が大きく揺れ動き、怒り、不安、空虚感、絶望感などが数時間から数日の間に激しく変化します。この感情の不安定さは本人にとって非常に苦痛であり、日常生活に大きな支障をきたします。

境界性パーソナリティ障害における薬物療法の位置づけ

境界性パーソナリティ障害の治療において、まず理解しておくべき重要な点は、薬物療法は補助的な役割であり、治療の中心は心理療法であるということです。パーソナリティ障害は、長年にわたって形成されてきた思考パターン、感情の処理方法、対人関係のあり方といった根深い問題を含んでいます。これらは薬だけで根本的に変えることはできません。

国際的な治療ガイドラインにおいても、境界性パーソナリティ障害の第一選択治療は心理療法とされています。弁証法的行動療法(DBT)、メンタライゼーション・ベースド・セラピー(MBT)、転移焦点化精神療法(TFP)、スキーマ療法など、エビデンスに基づいた専門的な心理療法が推奨されています。

では、薬物療法には意味がないのかというと、決してそうではありません。薬物療法は、境界性パーソナリティ障害に伴う特定の症状を軽減し、心理療法を受けやすくする環境を整えるという重要な役割を果たします。激しい感情の波、衝動性、不安、うつ症状、認知的な症状など、薬が効果を示す可能性のある症状領域は確かに存在します。

薬物療法の目標は、境界性パーソナリティ障害そのものを「治す」ことではなく、症状を和らげることで日常生活の機能を改善し、心理療法に取り組める状態を作ることにあります。激しい感情の波が少し落ち着けば、対人関係のスキルを学ぶ余裕が生まれます。衝動性がコントロールされれば、自傷行為のリスクが減少します。このように、薬物療法と心理療法は相互に補完し合う関係にあるのです。

どのような症状に薬が効果的なのか

境界性パーソナリティ障害に伴う症状は、大きく3つの領域に分類されます。それぞれの症状領域に対して、異なる薬物が効果を示す可能性があります。

感情調節の問題に対する薬物療法

感情の不安定さ、激しい気分の変動、不適切な怒り、慢性的な空虚感といった感情調節の問題には、気分安定薬や抗うつ薬が用いられることがあります。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬は、感情の不安定さや怒りの爆発を軽減する効果が報告されています。特に、うつ症状が併存している場合には有効性が高いとされています。気分安定薬としては、リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなどが使用されることがあります。これらは気分の波を穏やかにし、衝動性を抑制する効果が期待されます。

ただし、これらの薬が境界性パーソナリティ障害の感情不安定性に対してどの程度効果的かについては、研究によって結果が異なります。効果が見られる患者さんもいれば、あまり変化を感じない患者さんもいます。個別の症状や併存する他の精神疾患の有無によって、効果は異なります。

衝動性や行動の問題に対する薬物療法

衝動的な自傷行為、物質乱用、過食、攻撃的行動といった衝動性の問題には、気分安定薬や一部の抗精神病薬が効果を示すことがあります。

気分安定薬の中でも、バルプロ酸やカルバマゼピンは衝動性や攻撃性を抑制する効果が報告されています。ただし、これらの薬には副作用もあるため、慎重な使用が必要です。第二世代抗精神病薬の低用量使用も、衝動性の軽減に効果がある場合があります。アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピンなどが用いられることがありますが、体重増加や代謝への影響といった副作用に注意が必要です。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)も、衝動性の軽減に一定の効果が認められています。セロトニン系の調整により、衝動的な行動をある程度コントロールしやすくなることがあります。

認知的・知覚的症状に対する薬物療法

ストレス下で生じる一過性の妄想様観念、疑念、解離症状といった認知的・知覚的症状には、抗精神病薬が効果を示すことがあります。

第二世代抗精神病薬の低用量使用により、これらの症状が軽減されることがあります。特に、ストレス関連性の症状や、自分や周囲が現実でないように感じる離人感・現実感喪失といった解離症状に対して、一定の効果が期待できます。

ただし、境界性パーソナリティ障害における認知的症状は、統合失調症のような精神病性障害とは性質が異なります。一過性でストレス関連性が高く、通常は短時間で改善することが多いため、必ずしも抗精神病薬が必要とは限りません。

境界性パーソナリティ障害の薬物療法で注意すべきこと

境界性パーソナリティ障害における薬物療法には、いくつかの重要な注意点があります。

多剤併用を避ける

境界性パーソナリティ障害の患者さんは、様々な症状に悩まされているため、それぞれの症状に対して薬が追加され、結果として多剤併用になりがちです。しかし、多剤併用は副作用のリスクを高め、薬物相互作用の問題を生じさせ、どの薬が効いているのか分からなくなるという問題があります。

治療の原則は、必要最小限の薬物を、明確な目標症状に対して使用することです。効果が不明確な薬は整理し、本当に必要な薬だけを継続することが重要です。

依存性のある薬物の使用に注意

境界性パーソナリティ障害の患者さんは、物質使用障害を併存するリスクが高いことが知られています。そのため、ベンゾジアゼピン系抗不安薬のような依存性のある薬物の使用には特に注意が必要です。

ベンゾジアゼピン系薬は即効性があり、一時的に不安を和らげる効果がありますが、長期使用により依存や耐性の形成、認知機能の低下といった問題が生じます。また、衝動性を抑制するどころか、脱抑制により衝動的行動が増加することもあります。短期間の限定的な使用にとどめるか、可能な限り避けることが推奨されています。

自殺リスクへの配慮

境界性パーソナリティ障害では自殺企図のリスクが高いため、薬物の処方にあたってはオーバードーズ(過量服薬)のリスクを考慮する必要があります。

一度に大量の薬を処方することは避け、少量ずつ処方して定期的に受診してもらう体制を整えます。また、オーバードーズした場合の危険性が比較的低い薬を選択することも重要です。例えば、SSRIは三環系抗うつ薬と比較して、過量服薬時の致死性が低いとされています。

効果判定と定期的な見直し

薬を開始したら、定期的にその効果を評価し、継続の必要性を判断することが重要です。効果が不明確なまま漫然と継続することは避けるべきです。

特定の症状に対して薬を開始した場合、その症状が改善したかどうかを具体的に確認します。効果が見られない場合は、用量調整を行うか、別の薬への変更を検討します。症状が安定した後は、減薬や中止の可能性も検討していきます。

よりそうこころの在宅クリニックでの境界性パーソナリティ障害治療

尼崎市にあるよりそうこころの在宅クリニックでは、境界性パーソナリティ障害の方に対して、薬物療法と心理療法を組み合わせた包括的な治療を提供しております。

精神科専門医が、患者様一人ひとりの症状を丁寧に評価し、必要最小限の薬物療法を慎重に選択します。「この薬はどのような症状に対して処方しているのか」「どの程度の効果が期待できるのか」「どのような副作用に注意すべきか」といったことを、分かりやすく説明いたします。また、定期的に薬の効果を評価し、不要な薬は整理していくことを心がけています。

当クリニックでは、訪問での心理士によるカウンセリングも提供しております。医師による薬物療法と並行して、専門の心理士が定期的に訪問し、弁証法的行動療法やスキーマ療法などのエビデンスに基づいた心理療法を行うことが可能です。

境界性パーソナリティ障害の方の中には、対人関係の困難さや外出への不安から、医療機関への通院自体が困難な方も少なくありません。当クリニックでは、訪問診療とオンライン診療に対応しておりますので、ご自宅で安心して治療を受けることができます。

「感情のコントロールができない」「人間関係がうまくいかない」「自傷行為がやめられない」といった症状でお悩みの方は、一人で抱え込まず、尼崎市のよりそうこころの在宅クリニックにお気軽にご相談ください。

境界性パーソナリティ障害は、適切な治療により確実に改善が期待できる疾患です。薬物療法だけに頼るのではなく、心理療法を中心とした包括的な治療により、感情のコントロール能力が向上し、対人関係が安定し、自分らしい人生を歩んでいくことが可能になります。

治療には時間がかかることもありますが、焦らず一歩ずつ進んでいくことが大切です。私たちは、患者様の回復の旅に、専門的な知識と温かい支援を持って寄り添ってまいります。プライバシーに十分配慮しながら、安心して治療を受けられる環境を整えてお待ちしております。

記事監修医師

本 将昂院長

本 将昂 院長
精神保健指定医
日本専門医機構認定 精神科専門医

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