コラム
通院が難しい強度行動障害の方へ
2025/12/19
強度行動障害のある方にとって、医療機関への通院は大きな負担となることがあります。「待合室で待つことができない」「環境の変化でパニックになってしまう」「他の患者さんに迷惑をかけないか不安」といった理由から、必要な医療を受けられずにいるご家族も少なくありません。尼崎市のよりそうこころの在宅クリニックでは、強度行動障害の方に対する精神科訪問診療を行っております。ご自宅という安心できる環境で、専門的な診察と治療を受けることができます。こちらでは、強度行動障害の方への訪問診療の特徴、メリット、実際の診療内容について精神科専門医が詳しく解説いたします。
強度行動障害と通院の困難さ
強度行動障害は、知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害がある方に見られる、自傷行為、他害行為、激しいこだわり、パニックなどの行動により、日常生活に著しい困難が生じている状態を指します。これらの行動特性により、医療機関への通院には多くの障壁があります。
待合室での待機が最も困難な場面の一つです。知らない場所、多くの人の存在、予測できない待ち時間などが強い不安やストレスを引き起こし、パニックや自傷行為、大声を出すなどの行動につながることがあります。また、診察室という慣れない環境、初めて会う医師やスタッフ、診察という非日常的な状況も、大きなストレスとなります。
交通機関の利用も大きな課題です。電車やバスの音や揺れ、混雑、予定通りに進まない可能性などが、強い不安を引き起こします。自家用車での移動も、車に乗ること自体を拒否したり、車内で落ち着けなかったりすることがあります。
さらに、ご家族の負担も深刻です。通院のために仕事を休む必要がある、きょうだいを預ける必要がある、移動中や待合室で他の方に迷惑をかけないか常に気を張っている、といった状況が続きます。その結果、「もう通院できない」と医療から離れてしまうケースも少なくありません。
精神科訪問診療とは
精神科訪問診療は、精神科専門医がご自宅を訪問し、診察や治療を行う医療サービスです。通院が困難な方に対して、住み慣れた環境で専門的な医療を提供することを目的としています。
保険診療として認められており、通院と同様に健康保険が適用されます。訪問診療の頻度は、症状や状態に応じて月に1回から週に1回程度まで、柔軟に設定できます。訪問時には、医師による診察、薬の処方、ご家族への相談対応などを行います。
訪問診療は「往診」とは異なります。往診は急な体調不良時に単発で訪問するものですが、訪問診療は計画的に定期的な訪問を行い、継続的な医療管理を提供するものです。強度行動障害のように、長期的な支援が必要な状態に適しています。
訪問診療のメリット
強度行動障害の方にとって、訪問診療には多くのメリットがあります。
最も大きな利点は、慣れた環境で診察を受けられることです。ご自宅という安心できる場所で、いつもの生活の延長として医療を受けることができます。環境の変化によるストレスが軽減されるため、パニックや行動の問題が起こりにくくなります。また、ご本人が使い慣れた部屋、お気に入りの場所で診察を受けることで、より落ち着いて医師とのやり取りができることもあります。
生活の様子を直接確認できることも重要です。医師が実際の生活環境を見ることで、より的確なアセスメント(評価)と支援が可能になります。「どのような環境で過ごしているか」「どのような刺激があるか」「生活リズムはどうか」といった情報を直接把握できるため、環境調整や生活支援のアドバイスがより具体的になります。
ご家族の負担が大幅に軽減されることも大きなメリットです。通院のための準備、移動、待ち時間といった負担がなくなります。きょうだいがいる場合、一緒に家にいられるため、預け先を探す必要もありません。また、医師がご自宅に来ることで、ご家族が日頃感じている困難や不安を、より詳しく相談できる時間が確保されます。
継続的な医療の提供が可能になることも重要です。通院が困難で医療が中断してしまうことを防ぎ、安定した治療関係を築くことができます。定期的な訪問により、症状の変化や薬の効果を継続的にモニタリングし、必要に応じて治療を調整していくことができます。
訪問診療の実際の流れ
よりそうこころの在宅クリニックでの訪問診療は、以下のような流れで進みます。
初回の訪問前に、お電話でのご相談を承ります。現在の症状、生活状況、通院が困難な理由などをお伺いし、訪問診療の適応について判断いたします。訪問診療が適していると判断した場合、初回訪問の日時を調整いたします。ご本人が比較的落ち着いている時間帯、ご家族が在宅できる時間帯など、ご都合に合わせて設定します。
初回訪問では、まずご本人とご家族から詳しくお話を伺います。生育歴、これまでの診断や治療の経過、現在の症状や行動の特徴、困っていること、支援を受けているサービスなどについて情報を収集します。ご本人の様子を拝見し、可能な範囲で診察を行います。無理に触れたり、強制的に診察したりすることはありません。ご本人のペースに合わせて、少しずつ関係を築いていきます。
生活環境を拝見し、刺激の状況、危険な要素の有無、生活の流れなどを確認します。これらの情報をもとに、医学的な評価と診断を行い、治療方針をご家族と相談しながら決定します。必要に応じて、薬の処方や生活環境の調整についてアドバイスいたします。
2回目以降の訪問では、前回からの変化、薬の効果や副作用、新たな困りごとなどを確認します。ご本人の状態を診察し、必要に応じて治療内容を調整します。ご家族からの相談にも時間をかけて対応し、対応方法についての具体的なアドバイスを提供します。訪問の頻度は、症状の安定度に応じて柔軟に調整できます。
訪問診療で提供できる医療内容
訪問診療では、通院と同様の医療を提供することができます。
精神科専門医による診察と評価では、症状の観察、行動の評価、精神状態の確認を行います。ご本人の様子を実際の生活環境で拝見することで、より正確な評価が可能になります。
薬物療法については、症状に応じた適切な薬の処方を行います。イライラや不安を軽減する薬、睡眠を改善する薬、てんかんがある場合の抗てんかん薬など、必要な薬を処方いたします。薬の効果や副作用を継続的にモニタリングし、用量の調整を行います。訪問時に薬をお渡しすることも、処方箋を発行して調剤薬局で受け取っていただくことも可能です。
行動支援のアドバイスも提供いたします。応用行動分析(ABA)の考え方に基づき、行動の背景にある原因を分析し、具体的な対応方法をご提案します。環境調整(視覚的スケジュールの導入、刺激の調整など)、コミュニケーション支援(絵カードなどの活用)、ご家族の対応方法についてアドバイスいたします。
身体的な問題の評価も重要です。行動の背景に身体の不調が隠れていることがあるため、歯の痛み、便秘、中耳炎などの可能性について確認し、必要に応じて他の医療機関への受診をお勧めします。
福祉サービスとの連携
強度行動障害の支援には、医療だけでなく、福祉サービスとの連携が不可欠です。
当クリニックでは、相談支援専門員との連携を重視しています。サービス等利用計画の作成時に医学的な意見を提供したり、ケース会議に参加したりすることで、医療と福祉の両面からの支援体制を構築します。
行動援護や重度訪問介護などの福祉サービス事業所とも連携します。訪問診療で得られた情報を共有し、一貫した支援方法を提供できるよう協力します。必要に応じて、事業所スタッフへの助言や研修のサポートも行います。
短期入所や日中一時支援などのレスパイトサービス(ご家族の休息のための支援)を利用する際には、医学的な情報提供書を作成し、施設での適切な対応をサポートします。
特別支援学校や放課後等デイサービスなど、教育機関との連携も大切です。学校での様子と家庭での様子を総合的に把握することで、より効果的な支援が可能になります。
ご家族へのサポート
訪問診療では、ご本人への医療提供だけでなく、ご家族へのサポートも重要な役割です。
強度行動障害のあるご本人を支えるご家族は、身体的にも精神的にも大きな負担を抱えています。訪問診療の際には、ご家族の心身の状態にも気を配り、必要に応じてご家族自身のケアについてもご相談いただけます。
対応方法についての具体的なアドバイスを提供します。「このような行動が見られたときにどう対応すればよいか」「どのような環境調整が有効か」といった実践的な情報をお伝えします。また、「なぜこの行動が起こるのか」という背景を理解していただくことで、ご家族の不安や焦りが軽減されることもあります。
利用可能な福祉サービスの情報提供も行います。どのようなサービスがあるか、どうやって申請するか、といった情報をお伝えし、必要な書類の作成もサポートいたします。レスパイトケアの活用を積極的にお勧めし、ご家族が休息を取れる体制づくりを支援します。
よりそうこころの在宅クリニックの訪問診療
尼崎市小中島にあるよりそうこころの在宅クリニックでは、強度行動障害の方に対する専門的な訪問診療を提供しております。精神科専門医が定期的にご自宅を訪問し、お一人おひとりの状態に合わせた医療とサポートを行います。
当クリニックの医師は、発達障害や強度行動障害の診療経験が豊富であり、行動の背景を理解した上での医療を提供いたします。ご本人のペースを尊重し、無理のない形で診療関係を築いていくことを大切にしています。
訪問診療の対象地域は、尼崎市を中心に、近隣地域にも対応しております。訪問可能な地域や、訪問診療の開始までの流れについては、お電話でお気軽にお問い合わせください。
また、緊急時の対応体制も整えております。訪問診療を受けている方で、急な症状の悪化や行動の問題が生じた場合には、電話でのご相談や、必要に応じた臨時の訪問にも対応いたします。
訪問診療を始めるために
訪問診療の開始を検討されている方は、まずはお電話でご相談ください。現在の状況をお伺いし、訪問診療が適しているかどうかを判断いたします。
訪問診療の対象となるのは、通院が著しく困難な方です。強度行動障害により、医療機関での待機や診察が困難な方、移動が困難な方などが該当します。すでに他の医療機関に通院されている場合でも、通院の負担が大きい場合には、訪問診療への切り替えをご相談いただけます。
費用については、健康保険が適用されます。自己負担額は、保険の種類や所得に応じて異なりますが、通院と同様の負担割合(1割、2割、3割など)です。訪問診療には、診察料、訪問料、処方料などが含まれます。詳しい費用については、お問い合わせの際にご説明いたします。
初回訪問までに準備していただくものは、健康保険証、各種医療証(お持ちの場合)、お薬手帳(服薬中の薬がある場合)、障害者手帳(お持ちの場合)、これまでの診療情報(紹介状や検査結果など、あれば)です。また、現在の症状や困っていることをメモしていただくと、初回の診察がスムーズになります。
強度行動障害により通院が困難でお困りの方、必要な医療を受けられずにいる方は、尼崎市のよりそうこころの在宅クリニックにお気軽にご相談ください。訪問診療という選択肢により、ご自宅で安心して専門的な医療を受けることができます。ご本人の症状の改善と、ご家族の負担軽減のために、私たちがサポートいたします。一人で悩まず、まずはお電話でご相談いただくことをお勧めいたします。
記事監修医師

本 将昂 院長
精神保健指定医
日本専門医機構認定 精神科専門医